未来へ

2005.9.14

私以外にはまったく痛くも痒くも無い話だが、
うちのコーヒーメーカーが壊れた。

これは痛いです。 痒くはないけど痛いです。
10年以上連れ添ったそいつは、
最後に無茶苦茶濃いのをちょうど一杯分作って果てた。
苦かった。 容赦なく苦かった。

思えば、結婚式のお返しカタログでなんの気なしに選ばれ我が家にやってきて数年間、
こいつにスイッチが入れられることはなかった。
なぜなら私はインスタントコーヒーで十分満足していたからだ。
が、ふと、
いつものネスカフェエクセラを買う代わりにUCCオリジナルブレンドかなんかを買ってきて以来、
こいつはファミレスのドリンクバー顔負けに、
昼夜を問わず、休むことなく働き続けたのだった。
機関車のように湯気を吹き上げ、唐突にブシューッとかいってるさまは、
四畳半一間のアパートに文明開化の波をもたらし、
「味なんかどうでもいいんだ。 つねにそこにあればよい。」
という、コーヒー通とは似て非なる珈琲中毒の私の要求に見事応えつづけ、
あとからやってきた 「結局お前はなんなんだ」 という曖昧で脆弱な家電たちを尻目に、
「私、コーヒーメーカーです。 コーヒーを作ります。」 というシンプルさでもって、
24時間かける何千幾日、結果を出し続けてきたのだった。

最後の仕事を志半ばで終えたそれは、
いつもの佇まいのまま、突然冷えた。
それはいかにも「まだ途中」という様子だったので、
邪魔したものかどうかしばらく迷ったが、
思いきってコップに注いで飲んでみた。
びっくりするほど苦い。
地獄のように苦い。
「ああ、苦いなあ。」 と思った瞬間、涙が一粒転がり出てきた。
そう、私は完全に感動していた。
きゃつの生き様に。
いいでしょそれくらい。
生き様語ってよいのは、なにも生きてるものだけじゃない。
コーヒーメーカーが壊れて泣こうが笑おうがなにしようが、
そのへんは私の自由だ。 いやそのへんが私の自由だ。
ね。





←写真には写らない美しさが写るといいんですが。

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